「そろそろ行くとすっかァ、次元ヨォ?」
「あー、そうだなァ、ルパン。」
「ンじゃ、行くかァ?」
「そうだなァ。」
さっきから口先ばかりで一向に動こうとしない相棒達に、五右ェ門は一つ呆れたため息をくれてやって立ち上がった。
「ホラ、もういくらナンでも時間だ。」
「五右ェ門もああ言ってることだしヨ、行こうぜ。」
「そうだなァ。俺はさっきからそう言ってるぜ。」
「ンならヨ、次元、ちょっくら先出てくれ。お前が出たらすぐオレも行く。」
「いんや、ルパンが出たら出るよ、俺も・・・。」
「どっちだろうが大して変わりねェだろ?」
「じゃ、先出たら?」
「マァそう言うなや。」
やってられん。と五右ェ門はコタツに根が生えた二人を置いて部屋を出てしまった。
「あーァ、行っちまったヨッ。」
「だなァ。」
「ルパン、来てみろッ!」
急に興奮した声が呼んで、さしものルパンと次元も飛び出てきた。
「どうした?」
「見ろよ、驚くぞ。」
予想に反して嬉しげに振り向いた五右ェ門にならって、玄関を覗いて見たのは一面の雪景色。気付かぬうちに昨夜は一晩中降っていたのだろう、雪は路面を覆いつくしてまっさらな肌を晒していた。
「ヒョォ!どうりで静かだと思った!」
「気が付かなかった。いつのまに降ったんだろうな。」
首をひねる次元の傍らで、五右ェ門がマントを羽織りながら頷いている。
「さて、出掛けるぞ。」
やっと来た仲間を促して、上気した顔をして慎重に足跡をつけていった。
「あんなにはしゃいじゃって。可愛いンだからねェ。」
「しっかし寒ィな。やけに冷えると思ったよ。靴下二枚履いてくりゃよかったかな。」
「イヤだね、年寄りは。あのお侍サンを見習え。」
「あ?誰が年寄りだって?」
凄んだ次元はホルダーのある腰に右手をやってみせた。えへらえへらといつもの掴み所のない笑顔を浮かべたルパンが、すかさず詫びを入れる。
「オット、怖いねェ。こいつァご免なすって。」
外は身体の芯にじんじん沁み込むような寒さで、止みきっていない雪が一片ずつ舞っていた。
またもや玄関先でぐずる連中を置いて、五右ェ門は数歩先で新たにそっと足を降ろしているところだ。
「素足に草履一枚で平気なのは、最早人間じゃねェぜ、あれは…。」
と、彼の敏い耳は自分が話題に上っていることを聞きつけて振り向いた。
「俺はおぬし達と違って鍛えてるからな。心頭滅却すればナントヤラ、だッ!」
そうしてまたうきうきと自分の仕事に戻っていったが、ルパンも次元も背中越しのくしゅんという小さな声を聞き逃さなかった。
「奴だってまだまださ。」
二人分の哄笑が寒空に消えていった。
了
書いてて非常に楽しかったです。もう野郎共の会話なら際限なく続けられそうですよ〜。
(06年の寒中見舞いとして差し上げた物です。)