For My Love Harpy

こちらは、闘祭のコラボ企画として、たいやきやい太様にまさかの初対面で挿絵をつけていただいたものです。
すべての絵の権利はたいやきやい太様に属します。ダウンロードなどはくれぐれもご遠慮ください。


「問題は核なんだ」
 そう、キュウリは語りだした。
「真珠の出来かたを知ってるだろう、貝の中に異物が入ると、貝はそれを炭酸カルシウムの分泌物で包んでいく。
 それが長い時間をかけて何層にも重なり、美しい照りや輝きが出る。
 問題の真珠の核、これは極々小さいチップなんだ。帝政ロシア6代目国王の妃が嫁いだとき、彼女は莫大な持参金を携えてきた。
 だが、夫である国王は宮廷勤めの下女の一人と密かに逢い引きしていたことが発覚した。
 彼女はその後離婚し持参金を丸々持ったまま、里帰りしてしまった。
 それから、彼女の行方はしれない。
 離婚と言うスキャンダルを彼女の実家が好まず、彼女を勘当したためとも、夫に裏切られた悲しみのあまり自殺したからだとも、国王の怒りを買って処刑されたからとも言われている。
 で、チップだ。彼女は離婚の際、自分の持参金を何処かに埋めたと言う記述がある。
 そして腕の良い職人を雇って、極小の鉄片に埋めた場所の緯度と経度を刻ませたらしい。
 その鉄片を貝に入れて、真珠をつくり、片時も離さず身につけていたんだそうだ」
「持参金のありか入りの真珠がこの中に?」
 キュウリは頷いて、
「そうだ。ちょっと見せてくれ・・」
 と、整った真珠の中では粗悪な出来の一粒を指した。
「まあ、なんやかやと騒動のあった女性だし、その後実家は没落して家財道具の一切は売りに出されたから、我々としても探し出すのは不可能だった。
 しかし、国家の力というのはすごいものだね、こうしてここにひとつなぎで輝いている。
 これは最も価値の低い真珠だが、最も価値あるものへと我々を導いてくれるだろう」



 そして、キュウリは話を終えた。
 頬杖をついて退屈そうに聞いていたルパンに、もう一度聞く。
「さあ、これで情報は全て。渡してくれるだろう?」
「さあな」
「どうしてだ? 君は女へのプレゼントにする気だったハズだ、ケチのついた汚い真珠より、より高価なものを入れてあげる方が先方だって喜ぶ」
「なんで、そこまで調べてんの」と、ルパンは呆れ、
「確かにアンタは一つの条件をクリアした。けどよォ、残り二つも断る理由があるんだぜ?」
 キュウリは言葉に詰まったようだった。また足を組みかえる。
「だが、イエスと言ってくれなければ困るんだよ」
 それから、立ち上がって助手席の後ろに立った。
 すると、シートがくるりと回転し、それに座った人間ごとまたくるりと戻った。
 次いで、前の座席と後部座席の間に、分厚いガラスがするする降りてくると、ルパンは完全に孤立した形になった。
「ゆっくり考えてくれ給え。煙草も好きなだけ吸って良い。それと、考えるのに疲れたらいつでも言ってくれ。君の足の下には、ガスの噴射口がある。すぐに楽にしてやるよ」
 キュウリは、こつこつとガラスを叩きながら余裕たっぷりにそう言った。
 ガラス越しの声はくぐもっていて、更に陰気な感じになる。
 勿論、窓やドアは全て前でロックされている。
 しかし、ルパンは悠然としたものだった。
「甘いねェ・・そんなんでオレを閉じ込めたつもりなのッ、アンタ」
 キュウリが眉根をひそめる。「どういうことだ?」
「こういうこと」
 ルパンがエアーコンディショナーのリモコンを平べったくしたような形の物を取り出した。そのつまみの一つを右に引く。
 車が、大きく急カーブを切った。運転手が悲鳴を上げる。
 ガードレールにぶつかる寸前で車は方向を持ちなおした。
 運転手が騒いでいる。ハンドルやブレーキが利かない、と言っているようだった。
「ヌフフ・・オレが何もせずに車に乗ったと思ってたのか?
 オートってなぁ、意外と脆いもんでね。
 車体の下にちょーっと機械をしかけただけで、すぐ制圧できるのヨ」
 そこでまた、ツマミをいじる。今度は左に引っ張られた。
「オレの愛車をスクラップにしたお礼に、不二子チャンのところへリムジンで乗りつけてやる」
 暴走とも言える猛スピードで無茶な運転に、まず運転者がパニックに陥った。
 こぶしでダッシュボードのボタンを叩く。
 しかし前部のドアが逆にルパンによって抑えられていて、全く開かなかった。ガラスもルパンの手中だ。
「多分、それ防弾ガラスだろ。わざわざ自分たちを閉じ込めるなんて、ご苦労なこって」
 キュウリも最早ルパンに答えている余裕は無かった。必死に窓ガラスを叩いている。
 ゆがんだ顔は、ますますキュウリに似ていた。
 そうしている間にも、ルパンはつまみでハンドルを右へ左へと切り続け、ボタンでブレーキとアクセルを操作していた。
 
 やっと車が止まったのは、海の近くの小さいけれど品の良いアパルトマンの前だった。
「後部だけ」ドアを開けて降りる。キュウリが何か叫んだが、ドアを閉めてしまえば全く聞こえなかった。
「送迎に感謝するヨ、ヴャチェスラフ」
 聞こえないと分かっていてもそう口に出して言うと、ルパンは再びつまみを引いた。
 運転手とキュウリを乗せたリムジンは、波止場への道をまっすぐに下っていく。
 やがて、小さな水音が聞こえた。
 豆粒ほどに遠く上がった水飛沫を確認して、彼は満足げにリモコンの電源スイッチを切った。



 白を基調とし、所々にオレンジのアクセントが入った調度品が置かれたアパルトマンの一室で、女と男が座っていた。
「何か作って」
「甘いのか、辛いのがいい?」
「・・・甘いのは、後のお楽しみに取っておくワ、辛いのを頂戴」
 ルパンがジンを作っている間、不二子は気だるげに海の漁り火を眺めていた。
 いや、こんな夜中に漁をするのもおかしいから、あれは巡視船なのかもしれない。
 波の音が聞こえた。
 浜辺近くに建つ漁師小屋の明かりが、点滅を繰り返している。
 昨日はもっと間隔が長かったような気がする。
 あれでは、明日辺りには完全に電球の寿命が切れるだろう。
 それでも、多分電球は取り替えられない。電球を買える余裕は、漁師たちに無い。
 明日、ここから見える灯が一つ消える。それだけのことだ。
「不二子、何見てる?」
「・・・別に何も」
 ジンのグラスが二つ並んだ。
「不二子の誕生日に」
 と、ルパンがグラスを持ち上げる。それに応えて、
「乾杯」
 咽喉を焼くようなアルコールを感じながら、もう一度、灯火に目をやった。
 瞬きは目に見えて忙しくなっていた。
 どうもセンチメンタルになっていけない。

 それにしても、とルパンが話している。
「こうするようになってから、随分経つってのに、不二子ちゃんのことなぁーんも知らねェんだよな」
「アタシを知るってことは、アタシの国籍とか、年齢を知ることじゃないわ」
「そうだけっどもよ・・誕生日ぐらい教えてくれても、損は無いぜ」
「だから、今日じゃないの」
「じゃ、この前のは?」
「・・・アナタも、他の男と同じなのね」
 肩に置かれていた、暖かいルパンの手を包み、降ろす。
「そうね・・誕生日にも、色々あるの。
 アタシが生まれた日、子宮にアタシが出来た日、女になった日、『峰不二子』が生まれた日・・まだ聞きたい?」
 ルパンは両手を挙げて降参のポーズを示す。
 それから、もう一度肩に手をやり、抱き寄せた。
「充分!・・・不二子らしい答え・・」
 目を閉じていても、不二子の花唇に軽く塗られた口紅の色彩が強烈にフラッシュする。
 接吻する場所を徐々にずらす。
 口から、頬へ、首筋、鎖骨、胸とやり、手をとってそこにもキスをした。
 そのままの姿勢で、『王妃達の系譜』を不二子の首にかける。
 小さく、あっと声を上げた不二子の口をもう一度軽いキスで塞ぎ、言った。
「誕生日おめでとう、不二子」



「持参金の話、どこから聞いたんだ?」
 低くかかるジャズナンバーが、波の音に聞こえる。低く、高く、低く・・。
「奴らに、邪魔されたのね?」
「まあな」
「・・・・実は彼らから聞いたのよ。一度持ちかけられたんだけど、辞めたの」
「なんで?」
「6:4なんて! せめて7:3じゃなきゃ、折り合いがつかないわ。でも、今は・・・」
 と、艶やかな微笑を胸もとのネックレスに投げかける。
「感謝してるワ、ルパン」
 ゆっくりと均整のとれた身体をルパンに凭れさせ、目を閉じた。
 ジャズは終り、波の音がそれに取って代わった。
 永劫のその音が、かすかに伝わってくる。
 揺れるはずも無いのに、こうして預けている身体が波に乗ってたゆたうような錯覚に襲われる。
 北の海の冷たい水と違う、人肌のぬくもりに包まれて不二子はいつしか眠っていた。
 誘われてルパンも目を閉じる。まぶたの裏に、分譲地であがる焔がちらついた。
 



 朝起きたとき、女の姿は既に無かった。
 嬉々として宝探しに出かけたんだろう。捕らえたと思えばすぐに消える。そういう女だ。
 頭を振って起き上がり、ミルでコーヒーを挽いて淹れる。いい豆だった。
 さて、不二子の物を拝借して、次元に電話を入れる。
『何だ?』
 寝起きの次元は不機嫌極まりない。
「迎えに来てくれ」
『はぁ?』
「オレの車をスクラップにした不埒な野郎がいるんだヨ。絶版だったのに。だから頼む」
『お前ェなあ・・』
「ん?」
 向こうで息を思いっきり吸うのが聞こえ、
『朝帰りに人に迎えに来させるたぁ、何考えてんだッ!』
「わわわ・・誕生日聞き出したら何でもするって言ったの、お前ェだろ?」
『・・聞き出したのか?本当だろうな?』
「ホントホント。場所は・・・」
 と、用件だけを伝えると電話を置いてコーヒーを飲む。
 1時間もすると、次元が来た。

「で、教えてもらおうじゃねェの」
 走行する車の中、次元が声をかけた。ルパンは、何故か後部座席に座っている。
 そこで、不二子から聞いたことを伝えるが、次元は満足しなかった。
「ちゃんと、聞いたことに答えろ!じゃなきゃ、今ここで降ろす!」
 早速ブレーキを踏む。が、車は止まらなかった。
「あー、ごめん。アレ仕掛けちゃった」
 ルパンがニヤつきながらリモコン端末を取り出す。
 次元の罵声が、朝靄の街に消えて行った。

なんと、闘祭では「たいやきや」のやい太さんとコラボ!
貴重な八頭身ルパン(笑)を描いていただきました♪もう、不二子ちゃんの可愛〜いこと。ルパンでなくてもデレデレしちゃいます。
本当にこんなにいいの描いてもらっちゃって、良かったの?バチが当たりそうだ〜(笑)

題名の『Harpy』とは、ハルピュイアと読むそうで、ギリシャ神話で女性の顔をした鳥のこと。
これ、綺麗な顔をしている割に「強欲の象徴」だそうで(笑)
これだけでも不二子アンテナが傾くのに、仏教にも同じような鳥がいるんです。
『迦陵頻伽(がりょうびんが)』
やはり上半身が女性で、下半身は鳥。
しかし、こちらは美しい声で鳴き、仏の教えを説くありがたい怪物鳥。
この二面性!・・・不二子だ・・・。





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