真昼間の午睡に沈む、寂れた村の片隅にそのポストはあった。
赤いペンキの塗装には一面に錆が浮いて、受け口のステンレスだけがぬるいような太陽の光に鈍く反射している。
そこに女がやってくるのは、年に一度のことだった。
いつも右手には一葉のはがきを持って。
すべてが炎に包まれたあの日、
私がすべてを失って、またすべてを取り戻したあの日。
あの日から、私は死にました。
もとの身分のままでは、またいつ危険が及ぶかわからないから、と。
ずいぶんと久しぶりに会ったあなたは、私を抱きしめるなりそう言った。
そう、あの日から。
名前は捨てた。
生まれも捨てた。
唯一の肉親とのつながりすら――
私はここで別の人間としての生活を得ました。
だんだんと新しい名で呼ばれることに馴染み、
数は少なくとも暖かい人たちと知り合い、
小さい生き物が脱皮を繰り返すように、段々と私はもとの私を剥がしていく。
だけどこの日だけは。
葉書をあなたに出しましょう。
差出人の名も
宛先も
文面もないこの葉書を。
住所だけを書いて、
私たちの生まれた、あのなつかしい家に。
すっかり廃屋になったと聞いているあの家の、
かつては花で飾られた玄関口。
そこに据え付けられた慎ましい郵便受けに、
今年もいちまい葉書が増えるのでしょうか。
それでも私は構わない。
いつか、いつの日か。
あなたに届くと思うから。
兄さん、あなたの妹は今日もこうして生きていますと。
それは、年に一度の。
次元の妹の生死は原作でははっきりしませんが
生き延びていてほしいと思います。
2、あの日の空色
5、それが全てだ
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お題提供 http://lonelylion.nobody.jp/
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